Message-ID: <FFFFFFFF.93EFCED1@ZOKEI.AC.JP>
Date: Thu, 01 Jan 1970 09:00:00 +0000
From: 前田 朗 <MAEDA@ZOKEI.AC.JP>
X-Mailer: Mozilla 4.7 [ja] (WinNT; I)
To: aml <AML@JCA.AX.APC.ORG>
Subject: [aml 15733] 人種差別思想宣伝について(7)
Reply-To: aml@jca.ax.apc.org前田 朗@歴史の事実を視つめる会、です。
1月15日1) 内野正幸『差別的表現』は、「部落差別的表現の規制」の中で、差別規制の賛成論と反対論を検討しています。本書には5つの私案が紹介されています。
まずは紹介します。2) 部落解放同盟「差別規制法要綱(案)」(1985年)
「第3(差別表現、差別煽動の禁止)(1)何人も、ことさら部落差別もしくは民族差別の意図を以って、個人もしくは集団を公然と侮辱し、またはその名誉を侵害してはならない。(2)何人もことさら前記記載の差別を煽動する目的をもって、公然と個人もしくは集団に対する暴力行為または殺傷行為を挑発してはならない。」3) 松本健男案
「何人も、民族、人種、国籍ならびに社会的出身、出生を理由として、個人又は集団に対し、公然と侮辱的言動をなし、あるいは名誉、信用を傷つけ、憎悪、暴力、交際拒絶を煽動し、もしくは社会的・市民的権利の享有を妨害し、あるいは誹謗してはならない。」4) 森井案
「個人または団体に対し、ことさら部落差別の意図をもって、公然となされる侮辱、名誉毀損ならびに信用毀損を禁止する」5) 山中多美男案
(1) 確信犯、開き直り、(2)差別を利用しての利益追及、(3)執拗な差別電話,手紙、落書き、(4)ファッショ的な内容、を対象にする。教育・啓発を先行させ、にもかかわらず反省のない者に行政罰を科す6) 内野正幸案
「(第1項)日本国に在住している、身分的出身、人種または民族によって識別される少数者集団をことさらに侮辱する意図をもって、その集団を侮辱したものは、……の刑に処す。
(第2項)前項の少数者集団に属する個人を、その集団への帰属のゆえに公然と侮辱した者についても、同じとする。
(第3項)前2項にいう侮辱とは、少数者集団もしくはそれに属する個人に対する殺傷、追放または排除の主張を通じて行う侮辱を含むものとする。
(第4項)本条の罪は、少数者集団に属する個人またはそれによって構成される団体による告訴をまってこれを論ず。」7) 差別的な侮辱の罪、集団侮辱罪を処罰する規定の提案は、
(a)現実的な規制の必要性 (つまり放置しがたい許し難い差別的な表現によって被害が生じているという認識)、
(b)比較法的な検討 (各国の国内処罰立法および人種差別撤廃条約等の国際文書による規制の要請)、
(c)憲法論 (犯罪成立要件をきちんと絞り込めば、処罰しても、憲法違反にはならないという判断)を前提としているのでしょう。こうした観点から見ると、内野案はよくできていると思います。8) ちなみに、言論・表現を処罰することは常に憲法違反であるかのような特異な主張をする人がいますが、これは明らかな間違いです。刑法は、侮辱罪や名誉毀損罪を定めています。これらは個人の名誉、社会的評価等を保護する個人法益保護のための規定です。集団侮辱罪の提案は、個人法益だけではなく、一定の集団に対する侮辱も刑事規制しようという提案に過ぎません。したがって、立法事実が明確に提示され、犯罪成立要件の規定が少なくとも現行の侮辱罪の規定と同じ程度に明確にできていれば、処罰立法を作ることが憲法違反になることはありません。集団侮辱罪それ自体が憲法違反になるのではなく、集団侮辱罪の規定が犯罪規定として整備されているかどうか、明確かどうかが問題になるのです。
9) 次に私見ですが、ここまで検討しても、今のところまだ私自身は集団侮辱罪を積極的に提案しようと考えてはいません。たしかに、
(a)立法事実はあります。特に、在日朝鮮人や最近の来日外国人に対する差別的な表現には時として実に許し難いものがあります。
(b)また、そうした犯罪を処罰することは人種差別撤廃条約の要請です。
(c)さらに、そうした犯罪を処罰することは、世界人権宣言や自由権規約にも違反するものではなく、むしろこれらに合致します。
(d)日本国憲法に違反しない処罰規定をつくることもできます。
にもかかわらず、私が処罰立法に必ずしも積極的でないのは、
(a)立法政策論として、そうした処罰規定の妥当性、有効性についてなお疑問
がある,
(b)確信犯に対する処罰は、却って「勲章」になってしまう場合がある,
(c)日本社会の歴史的経験からして、警察・検察・裁判所にこうした権限を与
えることに疑問があること、
によります。したがって、私の次の関心は、人種差別撤廃条約の精神や、その他の国際人権法の理念に従って、集団侮辱の現実に対処するために、刑事規制によらない、別の方策を充実していくことになります(平凡すぎる結論ですみません)。