Date: Wed, 12 Jan 2000 16:05:55 +0900 From: 前田 朗 <MAEDA@ZOKEI.AC.JP> X-Mailer: Mozilla 4.7 [ja] (WinNT; I) To: "aml@jca.ax.apc.org" <AML@JCA.AX.APC.ORG> Subject: [aml 15621] 人種差別思想宣伝について(1) Reply-To: aml@jca.ax.apc.org前田 朗@歴史の事実を視つめる会、です。 1月12日
1) 数回にわたって「人種差別思想宣伝」について投稿します。
2) ドイツでは<アウシュヴィッツの嘘発言>が犯罪として処罰されることは日本でも周知のことに属します。
ただ、<アウシュヴィッツの嘘>罪がどのような犯罪とされているのか詳しくはあまり知られていません。ドイツ以外にも西欧、北欧、東欧諸国には関連する刑罰規定があります。例えば、これは日本でも報道されましたが、1997年12月26日、パリのナンテール裁判所は、極右政党・国民戦線のルペン党首に、人種差別禁止法に違反するとして、原告である11の人権団体に1フランから10万フランの支払いと、この判決をフランスの主要新聞、週刊誌に掲載する費用30万フランを支払うよう命じました。
これは、ルペンがミュンヘンで行った記者会見の発言で、「第二次世界大戦についてかかれた千ページの本を開いたとしても、強制収容所に割かれているのは2ページで、ガス室は15行にすぎない」「(ユダヤ人大量虐殺は)歴史の細部にすぎない」などと発言したというものです。
3) 一方、[aml 15571]で紹介しましたが、人種差別撤廃条約4条は、人種的優越主義に基く差別と煽動を犯罪として禁止するよう締約国に要請しています。人種差別撤廃委員会に提出された報告書を見ると多くの国で実際にそうした処罰立法がなされており、現に処罰されています。
私はごくごく一部しか見ていません。今後少しずつ整理してみようと考えています。<アウシュヴィッツの嘘罪>はナチス・ドイツの経験に対する反省という歴史的根拠から出ています。人種差別撤廃条約もネオナチの活躍への対応として出てきたものです。しかし、人種差別撤廃条約はドイツだけを念頭に置いているわけではなく、世界の問題を扱っていますから、<アウシュヴィッツの嘘罪>とは別の関心から人種主義・人種差別思想宣伝の規制方法を考慮しています。条約締約国も、それぞれの事情を背景に処罰立法をしているはずですから、様々の立法の類型があるはずです。そのあたりを調べたいのです。
4) 日本では、戦前の思想弾圧、表現弾圧の歴史に対する反省から表現の自由や思想・信条の自由が重要視されてきました。日本政府が十分反省したと言えるかは別として、少なくとも憲法学はしばしば精神的自由を優先的価値をもつものと位置付けてきました。そのため、いかにして表現の自由を実現するか、いかにして権力による介入を防ぐかに関心が注がれました。
これはこれで当然のことです。今後も重要です。ただし、問題もあることは否定できません。いかなる家、いかなる憲法であれ、「すべての表現の自由を保障する」という立場はまずありえません。犯罪や不法行為としてサンクションの対象とせざるをえない「表現」があります。
日本の刑法でも侮辱罪や名誉毀損罪があり、名誉毀損は民法上の不法行為と理解されています。とすれば、憲法上の保障を受ける表現と、保障を受けない表現をどのように仕分けするのかが問われざるを得ません。その仕分けをきちんとしていないため、「表現の自由」に名を借りたデタラメな主張が横行することになります。
5) 私自身のとりあえずの立場は[aml 15571]に書いておきました。この投稿では、まずはともあれ、お勉強しようということです。私の調査も不充分です。ご批判・ご教示を歓迎します。
6) 当面の参考文献
内野正幸『差別的表現』(有斐閣、1990年)
反差別国際運動日本委員会『人種差別撤廃条約と反差別の闘い』(解放出版社、
1995年)
在日朝鮮人・人権セミナー編『在日朝鮮人と日本社会』(明石書店、1999年)