e今回は、某掲示板でK−Kさんとグースさんによって論戦になっている「戦数」についての資料の提供になります。というより個人的に「戦数」って何なのかを知りたくなって、図書館で田岡良一氏の『戦争法の基本問題』を読んでいたら、その中でウェストレーキ説が高橋作衛氏の『戦時国際法要論』にあると紹介されていたので、ついでに書庫から出して貰ってコピーしてきたというわけです。
前のマルテンスの時は仮名送りがひらがなだったのでまだ読めたのですが、何とこれはカタカナで読みにくく、しかも文章区切りになる句読点がない・・・・ともあれ、読みにくいことこの上なく、「えーい!こうなったら入力してやる!」との勢いで入力してみましたというわけです。本来なら句読点も追加すべきですが、資料提供という意味から間違えてしまうといけないので、ここではやりませんでした。申し訳ありませんが、読まれる方が御自身でなさって下さい。
後、田岡良一氏の『戦争法の基本問題』の「戦数論」もついでにコピーしてきたのですが、時間があればこちらの方も資料提供してみたいと思います。最近写真整理目的でスキャナーを購入したのですが未だOCRソフトが使いこなせず、出来れば入力は面倒なのでOCRでやりたいのですけど、なかなかうまく行きません^^;
なお例に漏れず、ご使用はご自由に。但し、私は何の責任も持ちません。
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高橋作衛,『戦時国際法要論』,1905,p11-19
(1)旧漢字はなるべく常用・当用漢字に改めた。またカタカナの仮名送りをひらがなに改めた。 (2)文中−−−で区切られている箇所は、原著ではやや小さな書体で印字されている箇所を示す。 (3)段落はわかりやすくするため一行あけた。 (4)文中に挿入された【】はこれ以降が原著中の何ページ目となるかを示す。 (5)《》はこの範囲が原文が傍点により強調されていたことを示す。 (6)本文上部に見出し語が書かれていたが省略した。
緒論 第三章 戦規と戦数
【11】 第三章 戦規 Kriegsmanier; les lois de la guerre. と 戦数 Kriegsraison; raison de guerre; ratio Belli; jus oder titulus necessitatis.
独逸学者は戦規と戦数とを説く英国学者はこれを説かさる者多く之を説く者は之を否認す今左に独逸学者の戦規戦数論を左に挙く
ノイマンの現時欧州国際法(Grundriss des Heutigen Europaischen Volkerrechtes §41 p.p,103-105)に論する所は戦規と戦数の何なるかを明にすその説に曰く
国際争議を平穏手段又は強硬手段により解決する能はさる場合に国家は武力に訴へて満足の解決を求むるの権を有す之を交戦権と云ふ此の交戦権の固有の意味によれは極端の場合には相手国の存在を亡はしむることを妨げす然れとも必らす此く極端迄交戦権を強行するは必要にあらす蓋し敵を滅亡せしむるは戦争の目的にあらすして只要求の満足と戦費の賠償と戦員たりし権利侵【12】害の再ひ繰り返さるゝことなしとの保障を得は足れりとするのみ顧ふに古代の戦争は必す敵国の屈従をもって目的となし羅間の「ヤヌス」の殿堂の数世紀間閉ちられたることなく(平和の時は殿堂を閉つ)敵に対しては出来得る限りの損害を与ふ可しとの原則を採りたるも今日の文明国間に於ては一旦戦争に従うときと雖とも交戦の目的を達するに必要なる損害を与ふるに止む可しとの原則行はる此の如く固有の厳格なる交戦権に加へたる緩和並に制限の規則を称して戦規(Kriegsmanier)と云ふ然れとも最大の必要ある場合又は敵国か戦規を守らさる場合に再ひ交戦権の固有の厳刻に復帰し戦規を無視することを認むこの戦規を無視する必要を称して戦数(Kriegsraison)と云う
以上はノイマン氏の戦規戦数に関する大体の説明なるか総ての戦規は戦数により無視せらるゝにはあらず
独逸学者の唱ふる所によれば戦争法規を分ちて二種とす第一は絶対的戦規にして例へは過度の創傷を与ふへき弾薬又は毒薬等を用ゆるの禁止にして戦争の必要ありても之を無視す可からすとなすものなり例へは聖都の宣言の如し(付【13】録)第二は普通の戦規にして前に上けたる絶対的戦規以外のもの例へは海牙の陸戦に関する条約の規定中「成るへく」等の文字を挿入せる条項の如きものを云ふ此の絶対的の戦規以外の普通法規は戦争の最大必要の為めには之を無視することを得とせらる此の戦争の最大必要を称して必数と云ひ必数によりて普通戦規を無視するを得るの原則を必数の法則と云ふ
この必数の原則は独逸学者の唱道する所なれとも英国学者は之に反対せりその理由は元来戦争なるものは必要に基きて国際の常規以外の行動を為すものなりされは戦争の方便として用いらるゝ行為は最も穏和の手段と雖とも必要を根拠とす論者か所謂戦争の必数に基く原則を適用する場合と普通の戦規を適用する場合とは必要の程度によりて区別す可きのみ必要の程度の如き漠然たる標準によりて戦争の方便を区別するは何の利益もなくして危険なり元来必数を根拠として如何なる手段をも得可しと立論する以上は論理の必然的結果として必要の場合には絶対的戦規をも無視し得可しとせらる可からす然るに論者は此の極端に至るを敢てせす是れ論理に於て一貫せさるものと【14】云ふ可しと余の見る所を以てすれは今日の実際に於て必数の原則は之を認むるを可となす
−−− (参照)ウェストレーキ博士の戦規戦数論 一般の交戦行為とは直接に敵国の軍隊と干戈を交ゆる作戦の外に害敵の目的を以てする総ての行動を含む《防守せられさる市邑を砲撃し特別なる戦略上の目的なくして敵国の地域を荒壊する如きすなわち是れなり》是等の行為の目的は損害を加へて敵を弱め又脅迫によりて和を請ふに至らしめんとするにあり一般に交戦行為に関する原則を論究するに当りては大陸学者中に普通の戦争条規と所謂戦争の必数とを区別するものあるに注意せさる可らす今リューダー教授の所論によりてその区別の何たるを示す可し曰く
《戦争の必数は戦争条規か例外として遵守せられさる場合に蓋掩す》此の例外は二場合に於て生するのみ一は戦争の目的か只戦規を遵守せさるによりて達せられ戦規を遵守すれは達せられさる極端なる必数の場合にして外は敵が戦規を遵守せさるに対し報復を行ふ場合なり
敵の条規不遵守は之に対する報復として戦規を遵守せさるの権を生す何となれは熟知せられたる法律上の格言によりて自を法律を遵守せさるものは他か自己に対して之を遵守せんことを要請する能はざれはなり少なくとも敵の条規不遵守に対して自を条規不遵守を以て応するにあらされは敵をして有利の地位を占めしむるの虞ある場合に於て報復の権を生するは争ふ可からす
極端なる必要の場合に於て戦争の必数により戦規の不遵守を許す可きは報復の場合に於けると【15】等しく拒否し難し一個人も必要より出てたる行為に関し刑を免る可しとせは交戦に従事する国家に於ては尚ほ更ら然らさるを得す何となれば戦争は個人の行為よりも遙かに重大の結果を生するものなれはなり故に戦規の束縛か戦争の目的を達することを妨げ若くは極端なる危険に陥らしむ可く戦規を無視するによりて其の目的を達し若くはその危険を免る可き場合に於ては戦規の無視を容認するの外はあらす此の如き場合に於て戦規の束縛を受け甘んして戦敗に陥るものはあらさる可きか故に禁止は実際何の効力をも有する能はす此の如き場合に於て条規を以て行為を制律せんとするは無用の業のみ如何なる司令官、如何なる国家か温順に之に服従する程献身的精神を有するものあらんや
戦争の必数と戦争の条規の間に此の如き衝突を生するは素より希有の例外なり戦争条規は普通の慣例及ひ熟慮をへたる約定によりて成立するものにして国内公法及ひ私法と等しく通常発生する所の事実に適合す只《国内公法及ひ私法に於ても之を遵守せしむる能はさる例外の場合ある如く戦争条規に於ても同様の例外あるのみ》非戦闘員負傷して不能となれる戦員、私有財産及ひ休戦旗を保護する条規並びに不必要なる厭抑荒壊刧掠に対して占領地を保護する為めに締結せられたる約定を維持する条規は豈に漫に無視せらる可きものならんや是等か戦争の必数によりて無視せられるゝは只非常の場合に於て有り得可きのみ故に戦争の必数に基ける原則は頻繁に軽しく随意に適用せらる可きにあらす之を普通の戦規と同列に置くは不可なり戦争の必数に基ける原則は稀有なる例外の場合に於て適用す可きものにして只其の例外の場合に於て普通の戦規の上に立つのみ此の意味に於て戦争の必数に基ける原則を承認するも豪も杆格なし
戦争の必数に基ける原則を例外の場合に輸入するも戦争条規の経常的効力は之か為めに損せら【16】るゝことなし戦争条規か非常の場合に於て遵守せられさるの理由を以て戦争条規は単に慣例にして法にあらすと言ふものあらは是れ大なる誤謬にして総ての法律的制度の存在する究竟敵原因を無視するものなり《戦争の必数により戦規の不遵守を許すは尚ほ刑法に不論罪の場合あるか如し》若し必数を承認するか為めに戦争条規は法にあらすと言はゝ不論罪の原則を承認する為めに刑法は法にあらすと言はさる可らす戦争条規が単に慣例たるのみあらすして法の性質と効力とを有すとする見解は戦争の必数を承認するによりて毫も変するなし又国家か宣言により戦規の束縛を脱し得可しとする見解は余か執らさる所にして是れ戦争の必数により例外の場合に戦規を無視するとは別問題なり戦規の束縛は国家の随意に脱す可きにあらす只例外の場合に於て戦争の必数に基ける明割の理由によりて無視するを得るのみに仮りに一歩譲り戦争の必数は法の範囲を逸出したりとするも之を承認するか為めに戦争に関する法の存在を否定するを要せす只戦争に関する法は或場合に於て違背を免かれすとの帰結を生するのみ法の違背は他の部門に於ても起る所の事実にして或場合に於ては匡正す可らさることさへあり独り戦争に関する法にのみ限りたる事実にはあらさるなり
所謂戦争の必数に基く原則は本段の始めに挙けたる一般交戦行為の問題に如何なる関係を有するか更らにリューダー教授の言を引きて之を示す可し曰く
広き地域を残害し焼き払ひ荒壊することは敵軍に対する作戦上特定の目的を以てするのみならす一般交戦の手段として行ふを得可し例へは敵の前進を不可能にし若くは敵か勝利の見込なくして徒らに抵抗を継続する場合に戦争の恐る可きことを知らしめ早く和を請ふに至らしむるの目的を以てするか如し是等の行為か真に必数なるときは戦争の必数に基きて之を許容せさ【17】る可らす然れとも極端なる必要の場合にあらすして此の手段を用いるは人道に反する重大の非行として国際法上排斥せさる可らす
余は普通の戦規と戦争の必数に基く原則とを区別するに賛成する能はすリューダー教授は報復と必要とを以て戦争の必数に基く原則を適用す可き場合となせり然れとも報復の為めに戦規を遵守せさるは他の理由によりて正当とす可く所謂戦争の必数によりて始めて其の正当なるを認む可きにあらす戦争の必数に基く原則を承認せされはとて報復を正当とするに差支へなしされは戦数の原則の価値は必要の場合に於ける適用に関して評定す可し然れとも《戦争は基れ自身に於て必要に出つるものなれは戦争の方便として用いらるゝ行為は最も温柔のものも必要を根拠とす故に必要と不必要とによりて戦争の方便を区別するは能はす》論者が所謂戦争の必数に基く原則を適用する場合と普通の戦規を適用する場合とは必要の程度によりて区別す可きのみ《必要の程度と云ふ如き漠然たる験証によりて戦争の方便を区別するは殆んと何の稗益もなくして頗る大なる損失あり戦争の必数を根拠として如何なる手段をも許す可しとの説は論理の必要的経路により必要の場合には絶対的禁止をも無視し得可しとの帰結に到着せさるを得す》然れとも論者は実際この極端に至るを敢えてせす明示的約定及ひ毒害の場合に於ける如き古来人類一般の観念に基ける絶対的禁止は戦争の必数を適用す可き範囲の外とせり只なるへく絶対的禁止の事項を少なくし其の現今の範囲を拡張せさらんとするは自然の傾向なり此の傾向は戦争の慣行の改良を阻止するを免かれす
戦争の慣行の改良を望む可き淵源は一面に絶対的禁止の範囲を拡張し一面に縦令許可せられる行為に付てもその必要の程度若くは其の為めに生する利益の分量を慎重に考量するの義務を【18】世論によりて一層深く認知せしむるにあり「らむ」及ひ水雷の使用の如き敵軍に対する作戦上の行為に関して之を考慮するは政府の責任なり司令官も政府も多少実際に於ては戦時に於ける人民の激情の許す限りに於て残忍の行為を慎む可しリューダー教授は戦争の必数に基きて敵軍を恐怖せしむる為めに広き地域を荒壊するを得可しと説きたれとも教授の属する国の政府は容易に其の説の実行を敢てすることなからん絶対的禁止の範囲を拡張することも亦望みなきにあらす千八百七十四年ブリュッセルに開かれたる列国委員の会議は吾人に此の望を与ふるものなりブリュッセル会議にて決定せる陸戦の法規に関する宣言草案は不幸にして未た批准せられすと雖とも其の第十五条は「開放し且防守せられさる市邑、家屋の集合又は村落は攻撃し若くは砲撃するを得す」と規定せり又国際法学者が千八百八十年オックスフォードの会議にて決定せる陸戦法規提要第三十二条にも「防守せられさる地方を攻撃し若くは砲撃することを禁す」と記せりこの原則によれは開放し且防守せられさる海岸の市邑を艦上より砲撃することも禁止す可き筈なり吾人は陸戦に於ても海戦に於てもこの原則に違背する者が世論の非難を受けんことを望み得可し
仏国の某海軍将官は仏国か英国と交戦する場合に敵の勢力を銷盡し其の精神を弱むるか為めに一般に許されたる手段として防守せられさる英国の海岸を砲撃す可しと公言せり且リューダー教授よりも歩を進めて必要の場合に限るの条件によらすして之を行ふ可しとなせり其の主張を正当なりとする所の原則は将来独仏交戦の暁に両国をして単に軍事上の目的を以てのみならす政略上の目的を以て互に荒壊せらるゝに陥らしむるものなり若し此の恐る可き帰結を思はゝ仏国人たるものは防守せられさる英国海岸を砲撃することを躊躇せさるを得さる可し前に言へる《壮勇なる将軍は其の主張が或点迄は戦争の必数に関する学説の賛助を受く可きことを知らさりしな【19】らん》此の将官の公言は今日世界に於て尚ほ進歩に遅れたる道徳的状態の残存することを証するものなり《然るに学説上の戦争の必数に基き割定す可らさる必要を条件として如何なる手段をも執るを許す可しと教ふるは此の如き進歩に後れたる道徳的状態にあるものに口実を籍すの危険なきを得す》 −−− 修正箇所: 一回目(H15.10.19):綴り間違いの修正。戦規はKriegsmanier、戦数はKriegsraisonが正しい。 二回目(H15.10.21):p15で「他はあらす此の如き場合に於て条規を以て行為を制律せん」とある箇所は「外はあらす此の如き場合に於て戦規の束縛を受け甘んして戦敗に陥るものはあらさる可きか故に禁止は実際何の効力をも有する能はす此の如き場合に於て条規を以て行為を制律せん」と、大幅に文章が欠落していたので修正。
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