Re:Re:松岡環さんの聞き取りの手法の批判について >なお、最近、歴史証言と脳の記憶メカニズムに興味を持っています。近年、犯罪での証言、特に間違った目撃証言が生成されるプロセスに関連して、記憶や検索のメカニズムの研究が進んでいるようです。 もし、歴史証言と脳の記憶メカニズムについて、既に研究書がありましたらお教えください。
少し渡辺さんの問題意識とはずれるかもしれませんが、私は犯罪被害者が被害証言を嫌がる、拒否する、あるいは被害そのものを否定するという事例について、近年の心理学が明らかにした成果を知りたいと思っていますが、果たしていません。(つまり、スマイス調査の誤りの件です。)
>ただし、A1.については微妙な問題もあります。確かに、「勘違いや記憶違い」を聞き手が知っていることもありえるのです。
>エリザベスさんは、南京から上海へ移ったのは秋が深まってからと記憶していました。 >(しかし)エリザベスさんが、自分が当時書いた手紙を取り出して読んだところ、9月の始めに、1週間前(5日頃にあたる)に上海に着いたという記事を発見したのです。
元妻の記憶さえ訂正する渡辺さんの調査能力はすごいですね(笑い)。 聞き取り者が確実な情報、すでに確定された情報を持つ場合、念を押して聞くのは構わないと思っています。 これとは反対に、間違いが誰の目にも(一般読者の目にも)明らかな場合はあえて放置するのも構わないと思います。
(小野氏の O1.事前調査、事実関係を知った上でなければ、証言の真意の把握はできない。 O2.対象とした部隊が多いのに準備期間が短すぎる。 について)
>これは、「証言は史実を語らなければならない」という意味ではないと思います。
これはおっしゃる通りで、この条項が「証言は史実を語らなければならない」という意味に集約されるわけではありません。私が詰めを甘くして書いたな、と自覚していた点をちゃんと指摘されています。
ただし、松岡さんが事前調査、事実関係を知らずに始めたとか、準備期間が短いとかいう批判は松岡氏の実態をすべて知って言っているのだろうと思うわけです。
準備が少なければ、見逃しが多くなりますが、準備を完全にしようとすればいつまでも調査が始められません。証言者の年齢を考えると一日も早いに越したことはないのも事実です。小野氏の批判は一面的で、自分のやり方を絶対化しているのではないだろうか、と疑います。
小野氏:O8.編著が杜撰で誤りが非常に多い。 について。
実は小野氏が「編著が杜撰で誤りが非常に多い」と言っているのは 「三十旅団長の佐々木倒一少将の日記を読んだ」(p18)「機関銃中隊は、歩兵といっしょに行動することはなかったけれど」(p74)「下関には便衣兵の死体がたくさんあって」(p96)「ソ連製のチェッコ」(p99)・・・・ などのことなのです。
そして「これほど間違いやおかしな表現の多い本もめずらしい。人間のやることだから間違いはあるが、この本は度を越えている。」というのです。
>問題なのは、話し言葉では、無駄な言い回しや言葉が多いことです。裁判の証拠では、>ささいな言葉でも忠実に記述しなければなりません。 >しかし、インタビューによる証言集の多くは、きれいな文章になっています。きれいな>文にする過程で、聞き手の解釈や聞き誤りが混入している恐れがあると思いました。
これはその通りです。少しだけ話がずれますが、私もきれいな文にする過程をどのようにするかは非常に難しい問題があると思います。
そのひとつの例は本多勝一氏による聞き取りの方法です。本多氏は新聞記者出身で、5W1Hをもれなく、記して事件の内容を完成させるという立場です。本多氏が聞き取りの際に書いたメモの写真が著作のひとつに載っていますが、一枚の紙をあちらから、こちらから書いてあり、矢印が縦横に入っています。この書き方だと相当の編集が入っていることは確かです。
これは、新聞の取材というのが、対象とする事件が比較的近い過去であって、記憶がかなり保持されており、かつ証言者が故意に歪めた証言をするおそれが少ない、あるいはそのように受け取ろうとる向きが少ない、という特性にとっては有効な方法であると思います。
ただし、南京大虐殺の証言のような場合は話ぶり、話す順番、話の確度やあやふやなことなどすべてが証言の信憑性にとって非常に有用です。このことは幕府山の一連の証言・日誌の検証で実践的に示した通りです。
本多氏の聞き取りはひとつひとつの事柄について、故意にウソが書かれているとはちっとも思っていないのですが、5W1Hをそろえようとして訊いても、もともとの記憶が欠けた状態のところで根ほり葉ほり訊くと、確かな事実と曖昧な事実が同程度の確度で書かれてしまうのです。このやり方では証言者の語る事実の信憑性を検証する側からすると非常にこまるのです。その点松岡さんの聞き取りは素直な聞き取りがされています。
|